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Last Frontier

Project progress : 2017~2020

 シラカバの落葉が終わり、カラマツ林の黄葉がピークを過ぎた11月の初旬から、私は北海道の北『道北』を旅した。道北を旅するものは少し困惑するだろう。名のある木もなければ、名のある丘もない。北海道によく見られる、名の知れたランドマークとなるものが一つもない。一見、単調な景気が水平方向に広がっているだけである。

かつて林業で栄えた歴史を持つ道北の自然は、人にとってはあまり優しくはない。冬は平均気温が氷点下20度を下回る寒気が数ヶ月も一帯を覆い、夏の盆地は風が通ることなく、気温が30度を超える日が続く。人の進入を拒むように、国道沿いに広がる人工林が一帯を覆い、山の奥深くにはヒグマが生息する。そして、道北の中心を悠然と北上する天塩川は、4万年前から姿を変えないイトウが生息し、かつて幕末の探検家松浦武四郎が下ったときに、北加伊道(その土地に生きる者という意味が語源)と命名した舞台となった。狐の沢(シュマリ・ナイが語源)として冬は深い雪に閉ざされ、人の進入を拒んで来た広大な森に突如として現れた人口湖、朱鞠内湖は、かつて北海道の電力供給では欠かせない存在であった。今は古いダム湖として、天然林に囲まれた稀有な生態系を保つ。

私は、天塩川を下り朱鞠内湖を冒険し、道北で暮らす若者と出会った。その土地で暮らす若者たちは、川や湖で釣りをし、カヌーで川を下る。自作した雪板で雪山を滑り降り、焚き火を囲いながら、自ら彫ったククサのマグでコーヒーを飲んだ。決して優しくない自然のなかでも軽やかに逞しく生きている。まるで生活の中に旅があり、自然の循環の中で、暮らすように遊んでいた。

そんな彼らは道北を北海道最後の未開拓の地「ラストフロンティア」と呼ぶ。人を寄せ付けない、わかりづらく優しくない自然での遊びは、いまだ誰にも知られていないということだろう。私にとって道北の旅は、自分と対峙する鏡のような旅を連想させた。それは自分自身の中にある、いまだ知らないラストフロンティアを探す旅と重なった。

数井星司

フォトグラファー

数井 星司

北海道の記憶や自然の循環と人との関わりをテーマに写真作品を制作する。個展の開催や、海外での作品発表など活動している。

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